ロールスロイス イギリス生産工場のハンドクラフトに見る車づくりの粋

ロールスロイス イギリス生産工場のハンドクラフトに見る車づくりの粋

JCOM-TVのディスカバリーチャンネルの車番組で、ロールスロイスのこれまでの歴史と、イギリス南部にある製造工場、の生産工程と、試乗のインプレッションが紹介されていた。

日本では、実業家や、タレント、歌手などが所有している。歌手では五木ひろしが、世田谷の自宅に所有している。彼は、演歌歌手としては不動の位置にいて、毎年NHK紅白のトリとして、招かれている。また、日本全国津々浦々、コンサートをして、稼ぎまくっているのだから、ロールスロイスの最新モデルを常に購入し、それを維持していくだけの資金、財産が豊富にあるのだ。高校のときの同級生が、世田谷の外車ディーラーに勤めていて、五木ひろしの車を担当している。最後に聞いた話では、ロールスロイスは5千万円ほどの車体価格である。紅白に参加するときには、このサバランで代々木のNHKホールに乗りつけるらしい。因みに彼の奥さんは、メルセデスに乗っていて、その車も同級生が営業、整備の担当をしている。

 

 

ロールスロイス社の設立は1906年で、大変歴史が長く、その伝統が今でも受け継がれていると言っても過言ではない。設立当初より高級車の生産をしていて、ドライバーズ・カー(自分で運転する車)ではなく、お抱えの運転手がいて、ロールスロイスのオーナーは、後部座席でゆったり寛ぐというのが、ロールスロイス社発足当時からのコンセプトである。イギリスでの発足当時は、イギリスの貴族、アメリカの実業家などが顧客であった。それは、基本的には、現在もその経営スタンス、製造コンプセプトは変わらないものの、最近では、顧客ターゲットを広げ、その年齢層を7歳ほど引き下げることに成功を持たらす、ドライバーズ・カーとしてのロールスロイスを高級車市場に投入し、成功した。それが、ロールスロイス レイスである。それまで、ロールスロイス所有者の平均年齢は、53歳と高めであったが、ロールスロイス社は、経営の存続の観点から危機感を強め、それまで長年に亘り踏襲されてきた、お抱え運転手付きの車から、ドライバーズ・カーの市場にも踏み込み、ロールスロイス所有者平均年齢を7歳引き下げ、46歳とすることに成功した。今後、当社の、ロールスロイス レイスにおける方針転換の舵取りが、経営状態にどのように影響を与えていくかは、今後のマーケット状況と、顧客層の好みの方向性次第ではあるが、ひとまずは、ロールスロイスの経営陣がほっと肩を撫で下ろす良い結果を得ることが出来たと言って良い。

 

 

後部座席にゆったりと座り、日頃の責任からくる重圧感から一時の開放感を感じたり、今後の仕事の在り方においての思索を頭の中で巡らせたりすることは、多忙な生活をきわめる人々にとり、生活の中の重要な時間の位置付けとなるということであるならば、ロールスロイスのこれまでの概念通り、ロールスロイスは、自らが運転するのではなく、後部座席に座り、運転手を雇い入れて、運転してもらうのが、この車の正しい在り方であるのだろう。

 

その一方で、車は、自分で操ること自体が素晴らしいことであり、人生や生活の一部に浸透し、スパイスを与えてくれる重要な要素なのである。そして、その楽しみが生活の中での優先順位が高いという人たちも多い。自分が持ちうる財産のなかで、その財産の多くを車に使うような車愛好家の人たちである。

 

 

ロールスロイス レイスは、ロールスロイス社がドイツBMWの資本により買収されたのちも、その生産工場は、イギリス ウェスト・サセックス州のグッドウッドに拠点を置いている。ロールス・ロイスの本社機能もここにある。

 

 

ロールスロイス・レイスを生産する、この生産工場には、特筆すべき特徴がある。一部の工程を除き、ロボットによる生産を行わず、1台を生産するのに実に3日以上を要している。現代の一般的な車の生産所要時間を考えると、とてつもなく時間がかかって作られている車なのである。

 

 

ロールスロイスの価値を考える。それは希少性。巷ちまたに出回っている台数が圧倒的に少ない。見かけるエリアではよく見る車だが、地方で見ることは皆無に近い。都内では、昼間であればオフィス街でロールスロイスを見かけることがある。夜では、高級料理店の前に停車しているのを時折見かける。だから、効率性を重んじて大量生産することに重要性はない。

 

 

生産台数の少ない理由は、基本、受注生産だからである。ボディーカラー、内装の色や仕様、ステッチなどは、世界各地にあるディーラーの店舗で客の要望や好みをヒアリングして、それを生産工場のある英国グッドウッドに伝えることも可能。しかし、例えば、シートの色は実に千差万別で、既存の色以外にもサンプルの在庫が無いような、色や素材を特別注文することが出来るシステムになっているのである。そして、イギリス グッドウッド本社には、オーダーを顧客から聞き取るスペース・カウンターがあり、そこで、専門スタッフと相談しながら、世界に1台しかない、ロールスロイス・レイスを作り上げることが出来るのである。

 

 

工場の車体の組み立てスペースでは、作業員が、たっぷりと時間を費やし、効率性ではなく、完璧性を目指して作業を坦々と行っている。流れ作業ではあるものの、時間に追われるようなトヨタのようなカイゼン方式とは、かけ離れた製造風景が工場内では展開されているのである。ボディ全体の塗装が終わると、特別な個室ブースにレイスが持ち込まれ、熟練の作業員が、手描きで筆を用いて、オーダーされた一台1台異なる色の1本線をサイドボディに入れる。手作業であるから、機械やロボットのように均一ではなく、かえってムラがあるが、それこそが、伝統ある技術を持つ熟練工がハンドクラフトで描く価値あるデザインとして、顧客に喜びを持って迎え入れられる車となるのである。

 

 

これは、たとえばレクサスが目指すような、効率性を重要視される工場でつくられる高級車とは一線を画すものである。このような工程でロールスロイスを作り上げる作業員の給与水準は、大量生産されている工場のそれよりも高いと思われる。

 

 

日本の大手自動車メーカーが大量生産をしている自動車の組み立てラインで働いている人たちは、期間工の雇用形態の人たちも多い。そして、50歳くらいになると、体力的なものが考慮され、雇い止めとなり、その後、仕事が見つからず、路頭に迷う人も多い。大量生産される車は高級車と比較すると、廉価であるが、その価格は、低賃金で不安定な雇用形態で働いている人たちの犠牲の上に成り立っている。

 

 

ロボットでつくられた車は、何か味気なく、冷たく、そして温かみが感じられない無機質な感じがする。ロールスロイスは、ロボットではなく手作業で、そしてハンドクラフトを多用してつくられている分、温かみが感じられる。

 

 

日本人は、世界的に見ても手先が器用な人種である。これまで、大量生産とその効率性により、日本経済を支えてきたわけであるが、これからは、その器用さを武器にして、効率性ではなく、完全性、伝統を用いたモノづくり、ハンドクラフトを重用する、産業構造に方針転換することにより、そこで働く人たちの雇用と生活を守ることが可能であるならば、それを目指すべきではないかと思った。

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